生きている内は負けじゃない

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アップルとFBIのロック解除問題は21世紀の象徴だと思う

最近、アメリカでアップルとFBIがiPhoneのロック解除問題を巡って対立しているそうです。今、ヤフーニュースのトップにも出ていますね。

個人のプライバシー保護と犯罪捜査のバランスというのは極めて微妙な問題で、何が正解かというのは一概に言い切れないのだと思います。国によって法制度や価値観も異なりますしね。

なので、この問題については今後の推移を見守りたいとしか言えないのですが、このニュースはある意味で、21世紀という時代の象徴なんじゃないかと思います。

20世紀は、良くも悪くも国家の時代だったんですよね。経済の隅々まで、そして人間の心まで支配する全体主義体制の国家が幾つも生まれて、最盛期には世界の半分くらいがその支配下にあったわけです。資本主義や自由主義を掲げる国でも、社会民主主義福祉国家を掲げて、公的セクターの支出はどんどん増えていったわけです。いまでは先進国と呼ばれる国は軒並み、公的支出がGDPの半分くらいあるわけですから。それが良いか悪いかは価値観の問題ですけど、いずれにしても20世紀が国家の世紀だったことは否定出来ないと思います。

そこから考えを進めていくと、21世紀はどうなるのか?って疑問が湧きます。まず、最初に書いておくと、21世紀の国家はほぼ確実にますます役割が増えます。先進諸国は日本を筆頭にどの国も押し並べて急速な高齢化が進みますから、社会保障給付は右肩上がりです。あのアメリカでさえ、今は軍事費より社会保障費の方がずっと多いです。保健福祉省は国防総省の倍くらい予算付いてますしね。

だから国家が大きくなることはほとんど確実ですが、強くなるかどうかは分かりません。そして、その象徴がこの問題なんじゃないかと思うのです。

この問題で争点になっているiPhoneは5cらしいので、つまり二年半くらい前に発売された廉価モデルです。iPhoneは、言うまでもなく誰でも手に入れられるスマートフォンで特殊な機種ではないですし、問題の端末は政府や軍の関係者向けにセキュリティを強化した特注品でもありません。それどころか、むしろ今では旧型と言っていいモデルでもあります。最新機種ほどセキュリティは強化されているでしょうが、二年前のモデルでもアップルの協力無しには解読出来ないのです!

これは、21世紀の国家のあり方を象徴しているのかもしれません。少なくとも特定の領域では国家はかつてほど強くないし、最先端の技術やスキルを持つ多国籍企業や個人に対抗するのが難しくなりつつある、そういう現実です。

その原因は色々とあるのでしょう。デジタル化やグローバル化で技術や社会が急速に変化する一方、国家組織はベンチャー企業のようには動けないし、国境の向こうに影響力を及ぼすのも難しいです。また、特にサイバー空間では、アノニマスウィキリークスに代表されるように、一種のアナキズム的というか、反体制的な動きが(特に欧米では)出やすい、ということもあるのかもしれません。

暗号化などが進むことはプライバシー保護に役立つ反面、テロ対策などの観点では難しい面もあります。また、一部の多国籍企業やごく一部の高いスキルを持った個人が強くなりすぎることは、格差拡大の一因となっているとも言えます。有り体に言えば、工業化社会からポスト工業化社会へ移行する過程で、格差が拡大して、また特に欧州などでは、社会不安が高まる背景となっているのでしょう。

技術の進歩を止めることは出来ない以上、これは難しい問題です。格差の是正一つ取っても、多国籍企業は簡単に国境を越えて、利益をタックスヘイブンなどに溜め込んでしまいますから。格差が拡大する一方で科学技術は止めどなく進歩する、我々はある意味でSF的な時代に生きているとも言えるわけで、せめてこの作品がディストピア小説でないよう祈るばかりです。